秋が一番好きです。
9月になって、こうもはっきりと季節が変わるのも珍しいというように、すっかり涼しくなりました。
雨が続いていましたけれど、今日は少し晴れ間も。
かこさとしさんの『秋』は出版されるまま眠っていた原稿が、今回初めて日の目をみて、出版となった絵本です。
加古さんの青年時代ある秋を描いた自伝的なこの作品は、こんな風に始まります。
『トウモロコシの葉が風にゆれています。
ヒガンバナの行列ができています。
秋になりました。
私は秋が大好きです。』
そんな、秋が大好きな加古さんは、とても嫌な秋を過ごしたことがありました。それは1944年の秋のこと。
盲腸の手術をして長く入院をすることになった秋。手術をしてくれた楽しい先生が、戦争へ行った秋。澄んだ空に戦闘機が飛び、爆弾を落として行く秋。
それは、戦争の悲惨さの中で訪れた秋…。
戦争を憎み、平和な春が訪れることをただ願った秋。
1944年、18歳だった加古さんの心に焼き付いた戦禍の中の秋の風景は、美しく広い秋の空と対称的に、人間がただただ小さく命をすり減らしながら、愚かな道を行進した秋でした。
『翌年、日本は負けて戦争は終わりました。
それからくる年ごと、
さまざまな秋がめぐってきました。
つらかったり、さみしかったり、
くやしかったり、切なかったりしましたが、
ただひとつ、
戦争のない秋の美しさが続きました。』
この絵本はこの一文で、締め括られます。
まだ、戦争のない秋の美しさはなんとか、続いております。
加古さんの愛した秋と平和、そして憎んだ戦争の絵本です。
平和への願いが込められている、美しい絵本です。
どうぞご覧下さい。
「秋」かこさとし
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