「ハンプティ・ダンプティの本」アン・へリング 編訳 武井武雄 絵

武井武雄さんの名前は、こちらでも何度か書いてきました。

先月も「コドモノクニ名作選」の投稿で武井さんの名前を挙げましたが、本日もその武井武雄さんが絵を手がけた本を紹介させてください。

「ハンプティダンプティの本」という絵本なのですが、頭に“奇想天外でおもしろい”なんてサブタイトルが付いています。

それだけで少し怪しい雰囲気があるのですが、中には英語圏で古くから伝えられてきた伝承わらべ唄が23篇収められており、そのすべての唄に、美しくもあり少し不思議で怪しさもある武井武雄さんの絵が添えられています。

ハンプティダンプティと言えば、日本でもお馴染みのマザー・グースのひとつ。他にも「ロンドンばしがながされる」や「ジャックのたてたやしき」など、日本でもよく知られる唄から、おそらく英語圏でもほとんど活字になっていない唄まで、アメリカの文学者でありながら、日本児童文学学会などの会員でもあるアン・ヘリングさんによって選ばれ訳された唄が並んでいます。

日本では、竹久夢二や北原白秋に始まり、近年では谷川俊太郎さん、木島始さんの邦訳が代表的なマザー・グースですが、こちらの訳ではアン・ヘリングさんが小さい頃遊んだままの節を活かした訳になっており、より口承の色が強い日本語になっているよううです。

あとがきを読むと、アン・ヘリングさんがこの本で伝えようとしているわらべ唄に対する思いが述べられています。そもそも、どうしてマザー・グースではなく、ハンプティダンプティの本なのか、という説明もされており、そこには日本におけるマザー・グースの翻訳、解釈の歴史に対して、筆者が新しい風を吹き込こもうとしていることがわかり、とても興味深い記述になっています。書くと長くなってしまうので割愛いたしますが、現在私たちがなにげなく使っているマザー・グースという言葉が、本来どういったものだったかというのが短い文でわかりやすく書かれています。

こちらの本は、1980年に世界名作童話シリーズ18巻として集英社より刊行されたものを、新装、増補し1999年に発売されたものですが、B6判の小さなつくりになっています。おそらく、武井さんの本の仕事の集大成と言える刊本作品を意識したサイズになっているのだと思うのですが、訳者のアン・ヘリングさん自身も武井さん同様、日本の郷土玩具や工芸品を収集されており、こんな風にてのひらに収まるような芸術的だけれど素朴な本にしたかったのではないかと思います。

また、巻末には掲載されたわらべ唄と絵の説明がひとつずつ書かれているのも嬉しいです。古くからの唄と武井さんの絵がギュッと詰まった素敵な一冊です。

ちなみに武井さんの描くハンプティダンプティは、タマゴの姿をしていないんですよ。


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ハンプティ・ダンプティの本」アン・へリング 編訳 武井武雄 絵


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