Cy Twombly サイ・トゥオンブリーの写真-変奏のリリシズム

先日、現在川村記念美術館にて開催されているサイ・トゥオンブリーの写真展へ行ってまいりました。

昨年の原美術館での展覧会に続き、こうしてトゥオンブリーの展覧会を国内で見ることが出来るのを彼の作品のファンの一人としてとても嬉しく思います。

今回の展覧会はその名の通り、トゥオンブリーの写真作品を中心にした展覧会で、1950年代、まだブラック・マウンテン・カレッジの学生だった頃のものから、画家として成功を収めた後の80年代以降そして晩年の00年代後半、そして彼が亡くなった年、2011年までのものまでと、その創作のはじまりから終わりまで、トゥオンブリーの創作の重要なもののひとつであった写真作品を網羅的に、とは言わないまでもざっと概観することが出来る展覧会です。

写真作品の展示が中心にはなっていますが、数は少ないものの、絵画作品、ドローイング、版画、そして彫刻と、トゥオンブリー作品の創作のヴァリエーションを同じ場所で見ることができるので、写真作品との共通点を探ることも出来そうです。これはこの展覧会の意図のひとつでもあるのでしょう。

トゥオンブリーの絵画作品を見るときにいつも感じるのは、どの作品にも何か情熱的といいますか、有機的で感傷的な感覚を感じます。それは恐らくトゥオンブリーの作品を評するときによく聞かれる「音楽的」という言葉であったり「ポエジー」といった言葉で表されているものと同じだと思うのですが、彼の写真作品では特にその感覚が顕著に現れているように感じます。

ポラロイドカメラで撮られ、拡大、コピーされ紙に写されたそのタブローは輪郭線はぼやけ、色彩は淡くなり、ノスタルジックが感覚を呼び起こされます。

これはこの展覧会の図録で前田希世子さんが指摘されている「イメージの曖昧さが類似性を誘発し対象が置き換え可能になることで、多様な広がりがあらわれるのである」ということの効果のひとつであると考えられます。

抽象化されたイメージが、記憶の素のようなものを刺激し「どこかで見たことがある」という感覚が想起されやすいのではないでしょうか?例えばそれは「グーグルの猫」のようなものに近いのかもしれません。

ただ個人的にはトゥオンブリー作品の「ポエジー」の要素は別の要因もあるように思われます。

この展覧会で写真作品をまとめて見て感じたですが、その写真作品の多くがギリシャ/ローマ彫刻のようにも見える(同じ美的構成要因を持っているように感じる)ということです。

これは前田さんも書かれているのですが、前田さんが言うように「類似性を誘発し」というのではなく(ノスタルジーな感覚が与えられることについては「類似性」によるものであると思われますが、ローマ彫刻との関連については類似性ではない別の繋がり方をしているように思われる、ということです)何と言いますか、同じ美的な骨組み(構成要素)から出来上がった別のタブローであるかのように感じられるのです。

これは彼が写真作品をつくる際に用いる拡大、そしてコピーという手法も大いに関係があると思われます。

トゥオンブリーの写真を見て思うことのひとつが、現実を切り取るはずの「写真」というものがとても「絵画的」に見えるということです。写真というメディアとは基本的に切り離せないものである「レンズを通して一挙に写す」ということが、拒否されているような感覚、言い換えるならば「時間があまり写っていない」そのような写真が多いように思われます。

撮られた後にまた全く違う操作によって切り取られたそれらの写真は、彼の美的感覚によって創られた「彫刻」のように見えるのです。

この言い方でもまだ言葉が足りていないとは思うのですが、トゥオンブリーが古典的な確固とした審美眼を持っており、それに支えられて色々なヴァリエーションの創作を行ったのではないか、という視点を持つことも可能ではないでしょうか。

そう思うと、世代的には抽象表現主義〜カラーフィールド・ペインティングが全盛の頃のアメリカを経験したトゥオンブリーがローマを活動の拠点にした理由や、その絵画作品でギリシャ神話を重要なモチーフ(?)として扱っていることも関連付けて考えられ、少なくとも彼がギリシア・ローマ美術に対する只ならぬ関心があったということは言えそうです。

まだ日本におけるトゥオンブリーの受容は始まったばかりだと思いますが、彼が持ったギリシア・ローマ/古典美術への視線、そしてトゥオンブリーを経由して見る古典美術を、今一度考えてみるのも興味深く思えます。

私も書架にあるエリー・フォール「美術史 1 古代美術」、そしてレッシング「ラオコオン」などを手にとって、改めてCy Twombly作品との関連を考えてみたいと思っています。


一年ほど前に原美術館にて開催されたトゥオンブリーの展覧会を観覧した折にもブログを書きましたのでご興味があれば、こちらも読んで頂けると嬉しいです。

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